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 第16話 父親殺しは母親の指図!
『エドワード』("Edward", Child 13B)

Edward
From G. B. Smith, ed., Illustrated British Ballads, Old and New, Vol. 1, 1881.

前話の作品『ロー ド・ランドル』とまったく同じパターンで展開するのが、これまた有名な『エドワード』である。母親と息子の会話だけで成り立っている点も同じである。戻ってきた息子に母親が「どうしたの 血のしたたるその刀は/なぜそんなに悲しそうにしているの」とたずねる。鷹を殺してきたと答えると、「鷹の血はそんなに赤くはない」と言われ、今度は、葦毛の馬を殺してしまったのだと答える。母親が重ねて「あの馬はもう老いぼれ ほかにも馬はいる/ほかに悲しいことがあるのでしょう」と迫られて、「ああ ぼくは父さんを殺してきたのです/母さん 母さん/ああ ぼくは父さんを殺してきたのです/ああ なんということだ」と告白する。

次からは、『ロー ド・ランドル』におけるほどきちんとした遺言ではないが、「臨終口頭遺言」的な対話のパターンが展開する。母親が「おまえはどんな罪ほろぼしをするのだい」と質問し、息子は「ぼくはあの舟に乗って行く/海の彼方(かなた)へ 行ってしまおう」と答える。次に、「あのお城の塔や広間はどうするのだい/あんなに立派な塔や広間は」と訊かれ、「くずれるままにしておくさ/ぼくはもう二度と帰ってこないのだから」と答える。次に、「おまえの子供や嫁はどうするのだい」と訊かれると、「世間は広い 死ぬまで乞食をさせるさ/ぼくはもう二度と会わないのだから」と言う。品物を遺すという純粋な遺言ではなくて、伝統的な「臨終口頭遺言」の形式を巧みに応用していることが解るだろう。そして、応用形式の最後は『ロード・ランドル』とまったく同じである。「それで この母さんには 何を残しておくれだい/エドワード エドワード/この母さんには 何を残しておくれだい/いっておくれ わたしの息子」と訊かれて、息子は「地獄の呪いを/母さん 母さん/あなたは地獄の呪いを受けなさい/殺せといったのは あなただから」と答える。

しかし、なぜ母親が息子に夫殺しを依頼したのか、なぜ息子は言われた通りに父親殺しを実行したのか等々、事件の真相は何も明かされない。説明が無い分、聴衆は想像を刺激され、それだけ、事件の怖さ、不気味さが増すだろう。その点が、真犯人の意外性と合わせて、作品『エドワード』を有名にしているのかも知れな い。

この作品が詩人たちを刺激しただけでなく、作曲家ブラ−ムス(Johannes Brahms,1833-1897)に関心を持たれたことは、伝承バラッドの変奏した姿がクラシック音楽の中にまで見い出せるという点で、特筆に値しよう。ブラ−ムスは「バラ−ド」を5曲書いている。作品10の4曲と作品118の第3番である。バラ−ド第1番ニ短調作品10の1にのみ「エドワ−ド」とい う題名が付けられたが、楽譜の冒頭に「ヘルダ−の『諸民族の声』の中のスコットランドのバラ−ド『エドワ−ド』による」と記されている。アンダンテ、ニ短調、4/4拍子の冒頭旋律には『エドワ−ド』の詩がそのままの歌詞として当てはめられるという。アレグロ、ニ長調となる中間部は、恐ろしさが重厚な響きで 表わされる。なお、ヘルダ−(Johann Gottfried Herder, 1774-1803)の Stimmen der Völker in Lidern (=Voices of Nations in Songs, 1778-79)には トマス・パースィReliques of Ancient English Poetryからの22篇を含むイギリスの歌謡60篇が収められている。

ひとくちアカデミック情報トマス・パースィ:Thomas Percy, 1729-1811. イングランドの詩人、聖職者。シュロプシャー州 (Shropshire)ブリッジノース (Bridgnorth)に生まれる。『タトラー』誌 (The Tatler)や『スペクテーター』紙(The Spectator)の編集者、古代北欧詩の翻訳 (Five Pieces of Runic Poetry, 1763)、『ゴールドスミス回想録』 (Memoir of Goldsmith, 1801)など幅広い活躍の中でも特筆すべきが Reliques of Ancient English Poetry (1765; 2nd. ed. 1767; 3rd. ed. 1775; 4th. ed. 1794)の出版であった。18世紀におけるバラッド・コレクションの中でも最も重要なものの一つであり、英詩におけるバラッド・リバイバルとロマン主義運動の引き金になったと言われている。 友人ハンフリー・ピット (Humphrey Pitt)の屋敷で女中が火種に使っていた紙屑が古いバラッドの写本であったことを発見したことが、パースィがバラッド蒐集に乗り出すきっかけになったという逸話が残されている。これが、後に有名な 'Percy's Folio Manuscript'と呼ばれるものである。
 Reliques にはハミルトン(William Hamilton)その他12名の詩人のバラッド詩も収録されており、この歴史的なバラッド・コレクションは純粋な口承バラッド、ブロードサイド・バラッド、そしてバラッド詩の三者を含めたバラッド集なのであった。

 

コメント   

0 # コカママ 2016年01月16日 11:31
歌の箱1と歌の箱2を聞き比べま した。クラシック音楽にもこの話 が取り入れられていて「へえ〜、 そうなんだ」。フォークミュージ ックのこのメロディは「ありかも 」。ブラームスの「エドワード」 を弾いていたJozef Kapustkaの演奏に批判と 擁護の論争があって面白かったで す。個人的には彼の弾き方は旋律 に酔ってる感じでした。年齢が若 いからしょうがないか。誰かが「 ペダルの踏みすぎ」と書い...
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