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第59話 モチーフの混在
「うぬぼれマーガレット」 ("Proud Lady Margaret", Child 47A)

マーガレットが城壁から外を眺めていると、一人の騎士が近づいてくる。

Child 047 proud lady margaret 2

From Smith, ed., Illustrated
British Ballads, 
Old and New.1881. 

「立派な身分の者ではなさそうね/おまえのブーツはダブダブだもの」とマーガレットが横柄な口をきくと、騎士は、あなたの愛を得たいとやってきた、それがかなわなければ死ぬ覚悟だ、と言う。マーガレットは、勝手に死ぬがいい、誰も悲しむ者はいない、「大勢の立派な殿方が わたしの所為(せい)で死にました/皆さんのお墓には 草が青々と繁っています」と豪語するのであった。

奇妙なことに、その次からは謎かけ問答が始まる。三つの問いに答えられなければ死ぬのだと言って、荒野か谷間に咲く最初の花は何という花、夕べの風に乗ってうたうかわいい小鳥は何という鳥、と訊く。騎士は、その花は「サクラソウ」、小鳥は「ウタツグミ」と答え、三番目の質問 - 「小さなコインがどれほどあれば/わたしのお城の領地を買えるでしょう/小さなボートがどれほどあれば/世界を一周回れるでしょう」という奇抜な問いに対 しては、騎士が「だったら答えてごらん 小さなペニーが何枚で/三千ポンドの三倍になるでしょう/小さな魚が何匹で/世界を一周泳げるでしょう」と応じると、女は「おまえはわたしに似つかわしそう/結婚相手に十二分/お父様の跡継ぎのわたしの愛をかちとった/おまえが最初の男です」と、男の頓智を評価して、結婚してやっても良いと言うのである。父親には9つの城、母親には3つの城があり、跡継ぎは自分だけだと言う。そして、結婚するおまえは、それらのお城全部のまわりを耕して種を蒔き、5月15日には牧草地の草刈りをせよ、と命じる。ここで騎士は、マーガレットの嘘を暴露する。確かに親にはそれだけのお城があるが、おまえが継ぐのは三つだけだという。彼は、自分がマーガレットの兄であること、妹のうぬぼれを諌めにやってきた、と言う。マーガレットは、 「あなたがお兄様のウィリーなら/・・・/今夜は 食べるも飲むもやめにして/お兄様について行きます」と言う。命を絶つと言っているようであるが、ウィ リーは、「またもおまえはうそをつく/だって 手も足も洗わずに/ぼくといっしょに墓に行けるはずがない」と、現し身で墓には入れないと言っているのであろうか、婉曲な表現であるが、ウィリーが亡霊であることは、最後の台詞 - 「小さな蛆虫が寝床の仲間/冷たい土がぼくのシーツ/嵐が吹き荒れるとき/身を横たえて眠る場所」- からはっきりしてくるのである。

ここには色々な他の歌のモチーフの混在がみとめられる。すなわち、謎解きという点ではチャイルド1番「謎解き」(第25話参照)、解答不可能な難題を出し合う頓智合戦という点では2番「妖精の騎士」(第26話参照)、また、求愛に現れた男が実は兄であったということでは50番「美しい雌鹿」("The Bonny Hind")、実はその男は亡霊で、戻ってゆくところは蛆虫がわく墓の中であるという最後の台詞は77番「ウィリアムの亡霊」("Sweet William's Ghost"; 「冷たい土がぼくの蒲団(ふとん)/それはまた経帷子(きょうかたびら)/ぼくの寝床は土の中/飢(う)えた虫たちと眠るのだ」, 77B)、等々である。このように種々の歌が部分的に合成された形で一つの作品となっていたり、あるいは、ある部分だけ挿入されていたりということも、口承なるがゆえのバラッドの特徴として認識しておく必要がある。

A版はスコットの『スコットランド国境の歌』からであるが、原文の第6スタンザ(謎かけ)と第9スタンザ(解答不能な難題)がカギカッコ([     ])に入れられているのは、スコットがこの歌をエディンバラのハミルトン某という楽曲売りから入手した際に欠損していたので、自らが類似の別の歌から取ってきて挿入した箇所なのであった。(このような、編者による加筆の問題については第46話参照。)

ひとくちアカデミック情報
モチーフの混在:  モチーフとは、「文学•美術などで、創作の動機となった主要な思想や題材」をいい、音楽用語としては、「独立した楽想を持った最小単位のいくつかの音符ないし休符の特徴的な連なり」をいう。さらにライトモチィーフとは、「オペラや交響詩などの楽曲中において特定の人物や状況などと結びつけられ、繰り返し使われる短い主題や動機を指す。単純な繰り返しではなく、和声変化や対旋律として加えられるなど変奏・展開されることによって、登場人物の行為や感情、状況の変化などを端的に、あるいは象徴的に示唆するとともに、楽曲に音楽的な統一」をもたらす、そういうものをいう。上で述べた伝承バラッドの複合体('traditional compound')を、このような音楽的なライトモチィーフとして考えると理解し易いだろうか。(拙著『バラッド詩学』 66-68 参照。)