balladtalk

第43話 「おまえの心臓は三つに砕けるがいい」 
『プリンス・ロバート』("Prince Robert", 87A)

 

今回の作品は、残忍な殺害の手口において『ラムキン』(第37話参照)と双璧をなすかも知れない。ロバートの母親は、息子の選んだ花嫁がというよりも、息子の結婚そのものが気に入らない。結婚の祝福をお与え下さいと息子が懇願しても、「祝福ではなく 呪いをおまえに/祝福なんて もってのほかよ」と撥ね付ける。「呪い」どころか、毒入りワインを用意するという直接行動に出る。 祝福の振りをして乾杯するが、母親はグラスを口元に当てるだけで一滴も飲まない。

Child 087A prince robert
陣内敦作

対する息子は、中身を知ってか知らずにか、強い毒入りワインを一気に飲み干してしまう。「息子に毒をもったのですか お母さん」と言いながら、恋人エリーナにすぐ来るようにと使いを出す。

使いの小姓は母親の味方であった。ロバートが瀕死であることは伏せて、「お義母(かあ)様が豪華な食事にお呼びです/とても見事な料理です/お義母(かあ)様がおいしい食事にお呼びです/すぐにいらして お食事を」と言って、誘い出すのであった。エリーナがロバートの屋敷に到着すると、「かがり火が燃え/侍女たちが声張り上げて」泣いている。ロバートの姿が見えないと焦るエリーナに母親は、お前の花婿は死んで、今しがた墓に埋められたばかりだと告げる。そして、「息子の財産も財宝も/なに一つ おまえには渡さない/広い領地(とち)も一坪たりとも渡さない/おまえの心臓は三つに砕けるがいい」と言う。財産も財宝も土地も要らない、ただ約束の指輪をくださいと懇願しても、「息子の指輪など/おまえには渡せない/息子の指輪など もってのほか/おまえの心臓は三つに砕けるがいい」と母親は言う。「おまえの心臓は三つに砕けるがいい」という言葉は呪いだったのである。呪いをかけられて、「娘はくるりとまわって壁を向き/岩に顔を向けて立ちました/義母(はは)の目の前で/心臓を打ち砕かれたのでした」とうたわれる。

最後は、死んだ二人が植物に変身して結ばれるという様式化された終わり方をしているが、直前の「おまえの心臓は三つに砕けるがいい」と繰返される「三」('three')という数字であるが、これはバラッドの物語技法の一つとして頻出する神秘的・呪術的雰囲気作りに欠かせない'mystic number'と呼ばれるものである。

ひとくちアカデミック情報'mystic number': 「三」('three')その他の奇数は、洋の東西を問わず、宗教的な「秘儀」と密接に関係した数字であるが、バラッドのようなフォークロアの世界においても、この数字は超自然的な意味を伝える修辞技法であった。詩人たちがバラッドを模倣する時、この修辞法を取り入れる者も多い。例えば、W・J・ミクル (William Julius Mickle, 1735-88)の「カムナホールの館」 ("Cumnor Hall", 1784) で、愛する人から見捨てられた伯爵夫人が悲しみでやつれ果てて死んでゆく時、「死を告げる鐘の音が 三度鳴らされ/風の精の呼び交う声がした/カムナホールの塔のまわりで/カラスが 三度羽ばたいた」 ("The death-belle thrice was hearde to ring, / An aërial voyce was hearde to call, / And thrice the raven flapp'd its wyng / Arounde the tow'rs of Cumnor Hall.")と表現されている。