第33話 許されぬ身分違いの恋
『アンドルー・ラミー』("Andrew Lammie", Child 233A)
世はインターネットの時代、わたしがこの「バラッド・トーク」のために作ったYouTubeが世界を駆け巡り、思わぬ処で見知らぬ人に聴いていただき、おまけにコメントまで頂戴したりすると、とても嬉しくなってくる。第13話「妖精の国に行った実在の詩人」でChizuru Ikeさんがうたう"Thomas Rymer"を聴いたイギリス人の「わたしも妖精の女王に逢ったことがある」というコメントなどに接すると楽しくなってくるのである。現在まで16曲アップしているが、再生回数が多いものでは第12話「腕利き船乗りの運命」でJean Redpathがうたう"Sir Patrick Spens"の2,500回、第5話「国境を越えた禁断の愛」で同じくJean Redpath がうたう"Bonnie Susie Cleland"の2,999回などである。後者については14人のコメントが届いているが、家族が赦さない恋をした娘を焼き殺すという残忍な話をめぐっ て意見は様々である。中にアメリカ人‘astrolog7000’さんのコメントで、 「わたしは35年間にわたってチャイルド・バラッド全巻を読んできたが、結婚していない女性に子供が出来ると、女は売女(ばいた)として家族の者に焼き殺されるし、等々」と、自己選択の権利を与えられず、虐げられていた時代の女性の例を挙げ、親の勧める結婚を拒むとしばしば叩き殺された例として"Mill o' Teftys Annie"を読んでみるがいい、と述べている。"Mill o' Teftys Annie"とは、チャイルド233番 "Andrew Lammie"の別名である。YouTubeのコメントを目にした日本の読者の理解のために、この歌を紹介しようというのが今回の目論見である。
陣内敦作 |
スコットランド北部、アバディーン州のファイヴィの森で二人の恋人、地主の家来でトランペット吹きのアンドルー・ラミーとティフティ水車場の娘アニーは逢い、何千回も口づけを交わす仲だった。しかし男は仕事(?)で、南のエディンバラに行かなければならなくなる。「あなたと一緒にいれたらいいのに」と言う女に男は、「あなたのもとに戻ってくるまで/決してほかの女に口づけはいたしません」と誓う。女も、「あなた様が戻ってくるまで/決してほかの殿方と口づけはいたしません」と言う。やがてエディンバラから戻ってきた男は恋人アニーを探す。何処にいても、片時も忘れることのなかった恋人、しかし彼女の父親が二人の結婚を許さないのである。理由は、彼女の方が金持ちで、男が一文無しだからである。アンドルー・ラミーの名を口にしながら悪夢にうなされるアニーは、父親からも母親からもひどい折檻を受ける。姉妹からも嘲られるが、一番ひどかったのは兄だった。「兄は妹をひどく叩きました/何度も何度も叩きました /兄は妹を倒して わき腹を叩きました/アンドルー・ラミーとの恋ゆえに」とうたわれる。「牛もお姉さまのことでモーモー鳴いてるわ」と、妹たちから嘲られてアニーは、「ファイヴィの牛の鳴き声よりも/トランペットの音色を聴きたい」と言う。トランペット吹きとの結婚など決して許さないと父親に反対されたアニーはとうとう、「愛がこの体をやつれ衰えさせ/ああ 愛がこの体を滅ぼしてしまう/あなたへの愛ゆえに死なねばならぬ/さようなら アンドルー・ラミー」と息絶えてしまったのであった。
仕える地主の家の屋根に登って吹くアンドルー・ラミーのトランペットの「大きく高い音」が辺り一帯に広がり、「私も参る かわいいアニーよ」と言って、男も恋人の後を追ったのであった。アニーの家族の残忍な行動にもかかわらず、アニーの一途な想いが大きな共感を呼んで、この歌が特にスコットランド北部で広く愛されたことをチャイルドもその頭注で証言している。
ひとくちアカデミック情報: ‘astrolog7000’さんのコメント: 原文: "I've got news for you all. I have read about all of the Child ballads, the five-volume set, over and over again for 35 years. If a woman got pregnant out of wedlock, her own family burned her as a "whore." And if she went to bed with a man before marriage, and they found out about it, they also burned her at the stake. If she refused to marry whom her parents wanted, they often beat her to death. Women had no rights. Read 'Mill o' Teftys Annie.'" これに対する'handmlove'の返信:"Yes, you are right! This is a sad history of women, which is felt by us all thanks to the beautifully sad voice of Jean Redpath."