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第87話 同一人物が違った名前で・・・ 
「新生ロビン・フッド」 ("Robin Hood Newly Revived", Child 128)

伝承バラッドに登場する人物名は、固有名詞が本来持つべき「個性」が無くて(あるいは、重要では無くて)、言って見ればすべての男女が 「ウィリアム」('William')とマーガレット('Margaret')で済むということは、かねて述べている通りであるが、その点でもロビンフッド・バラッドは例外である。主人公ロビン・フッドには、アウトローとしての強い個性があり、彼を取り巻く部下たちにもそれぞれの個性と役割がはっきりしている。その点でも、ロビンフッド・バラッドは伝承バラッドの中にあっては例外的であると言えよう。

ロビンの両脇を固める二人の部下はリトル・ジョンとスカロックである。リトル・ジョンの登場については、すでに第30話で紹介しているが、スカロックは今回の「新生ロビン・フッド」の中で、ロビンとの最初の出会いが語られる。しかし、彼がこの128番以前の作品でもすでに登場していることはリトル・ジョンの場合と同じである。前話のロビンの最期と同様に、物語は時系列的に配置されてはいないのである。今回整理しておきたいのは、「名前の不統一」をめぐる理解である。

Child 128 Robin Hood Newly Revived  
陣内敦作

ロビンは森の中で見知らぬ若者と出会う。絹製のダブレット(腰のくびれた胴衣、14~18世紀頃の男性の軽装)を着け、深紅の靴下を履き、40メートル近く離れたところで草を食(は)んでいる鹿をいとも簡単に仕留める腕前である。「お見事 お見事・・・/見事な間合い/もしもお前に異存がなければ/わしのもとでヨーマンにならぬか」と言い寄るロビンにその見知らぬ若者は、「とっとと立ち去れ・・・/ぐずぐずするな/さもなくばこの拳が/貴様をぶちのめすぞ」となかなか鼻息が荒い。その後は例によって一騎打ちとなり、太刀で頭を打たれ、「ロビンの頭髪(かみ)の一本一本から/鮮血が滴りおちました」という事態に至ってロビンは降参し、若者の素性を尋ねる。父親の下男を殺した廉でイングランドの森へ逃げてきたこと、そして「ロビン・フッド」と呼ばれている叔父貴を探していること、自分はロビンの姉の息子で名前は「ヤング・ガムウェル」である、と素性を明かす。そこにやってきたリトル・ジョンにロビンは、「これはわしの姉の息子/わしのたった一人の甥っ子よ」と紹介し、これより自分の部下としてジョンに次ぐ地位を与えること、その上で「このロビン様と リトル・ジョン/そしてこの若者の名はスカロック/我ら三人はこの北の地で/最も勇敢な無法者となるだろう」と締めくくる。

「そしてこの若者の名はスカロック」という翻訳部分であるが、原文は 'And Scarlet he shall be'で、「そしてこの若者はスカーレットと呼ぶことにしよう」というのが正確な訳であり、ロビンは若者の本名を「ガムウェル」と知った上でニックネームをつけたのである。訳者が「スカロック」としたのは、ロビンフッド・バラッドの全体を通して誤解を招かぬように同一人物に同じ名前を付したと思われ、それはそれで良いと思うが、実際にはこの人物は作品によって違った名前で呼ばれていることを承知しておかないと誤解を招く。128番で「スカーレットと呼ぶことにしよう」と述べているのは、この若者が深紅の靴下を履いていたことから来ている。「ロビン・フッドの死」 ("Robin Hood's Death", Child 120A)でも「スカーレット」('Scarlett')であるが、「ロビン・フッドと短衣の修道士」("Robin Hood and the Curtal Friar", Child 123B)や「ロビン・フッドとアラゴンの王子」("Robin Hood and the Prince of Aragon", Child 129)では「スカッドロック」('Scadlock'、翻訳は「スカロック」)、「ロビン・フッドの武勲」("A Gest of Robyn Hode", Child 117)では出だしの第4スタンザでは「スカロック」 ('Scarlok')とありながら、293スタンザでは'Scatheloke'、402スタンザでは'Scathelocke'(翻訳はいずれも「スカロック」に統一)というように同一作品の中でさえ変化する場合もある、といった具合である。それがために、ロビン・フッドをハンティントン伯と最初に特定したと言われるエリザベス朝時代の劇作家アンソニー・マンディ(Anthony Munday, 1560? – 1633)の『ハンティントン伯爵ロバートの没落』(The Downfall of Robert, Earl of Huntington,1597-98) では'Scarlet'と'Scathlocke'を腹違いの兄弟と捉えるといった混乱(?)を生じたりした。伝承バラッドを集大成したチャイルドと同じアメリカ人で、同じ19世紀後半に、まとまりのある散文物語として集大成したハワード・パイルの『ロビン・フッドのゆかいな冒険』(The Merry Adventures of Robin Hood, 1883)では、今回紹介のロビンとスカロックの出会い通りの紹介がなされ、若者は名前を「(ウィル)ガムウェル」と答え、それに対してロビンが「その派手な色の服にちなんで、これからずっとおまえを赤服のウィルと呼ぶことにしよう」[村山知義・村山亜土訳(岩波書店, 1971);原文は'Will Scarlet']というやり取りがあって若者に対する呼び名がすっきりと整理されている。更にパイルは、「ウィル・スカーレット」('Will Scarlet')と「ウィル・スケースロック」('Will Scathelock')は同じロビンに仕える二人の別人物として扱っている(下の「ひとくちアカデミック情報」に原文から一部引用[*印])。

ひとくちアカデミック情報:
ハワード・パイル:Howard Pyle,1853 – 1911. アメリカの児童文学者であり挿絵画家。定期刊行物や児童書などに寄せた挿絵に加え、パイルは自分自身の挿絵を添えた多くの本を出版している。1883年に出版された『ロビン・フッドのゆかいな冒険』(下の挿絵左側)は日本でも欧米でも児童文学の古典となっているが、子供の読者にわかりやすいように様々なバラッド伝説の諸々の話を紡ぎ合わせて一つのまとまりのある物語に修正したものである。パイルは『アーサー王と騎士たち』(The Story of King Arthur and His Knights, 1902)などの中世ヨーロッパを舞台にしたもので名声を確立した。海賊伝説を集めた『カリブ海の海賊』(Howard Pyle's Book of Pirates)(下の挿絵右側)がパイルの死後1921年に出版された。

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* "And here is good company, too; Robin Hood, Will Scarlet, Allan a Dale, Will Scathelock, Midge, the Miller's son, and others." (Howard Pyle, The Adventures of Robin Hood, 338, iBooks) (簡約版の村山訳ではこの部分カット。)



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