balladtalk

第77話 伝承と合成
「命がけのウィリーの夜這い」 ("Willie's Fatal Visit", Child 255)

亡霊が現れるその晩は「一日が過ぎ 夜が来て/人が皆 寝静まったとき」という常套句でスタンザが始まるというような伝承歌の決まり文句とは別に、ある表現ないし極めて似た内容が別の歌に登場する場合も多々ある。それが歌い手の記憶に残るパターンなのか、それとも三文文士の下手な模倣なのかは判然としない。いずれにせよ、これが伝承歌に見られる一つの特徴であることを了解しておく必要がある。伝承の過程の中で複数の作品が合成されてゆくという前回の話題を、今ひとつ別の作品を例に取って、少し詳しく紹介しておきたい。(今回は、類似性を比較するために、訳文に原文を添えるという形を了解いただきたい。)

「命がけのウィリーの夜這い」という今回の作品で、ある日の夕方語り手が家の外に出ると、娘が泣きながら、「わたしの父と母を見かけませんか/兄のジョンを見かけませんか/この世で一番愛する恋人を見かけませんか/その人の名はウィリアム」(Saw ye my father?  Or saw ye my mother? / Or saw ye my brother John? / Or saw ye the lad that I love best, / And his name is Sweet William?)と話しかけてくる。語り手は答えて、「お父さんもお母さんも見かけません/お兄さんのジョンも見かけません/あなたがこの世で一番愛する恋人は見かけました/たしかに その人の名はウィリアム」('I saw not your father, I saw not your mother, / Nor saw I your brother John; / But I saw the lad that ye love best, / And his name it is Sweet William.')と言う。さて、「灰色の雄鶏」("The Grey Cock, or, Saw You My Father?", Child 248)という別の作品は、「父を見かけませんか それとも母を/それとも 恋人ジョニーを見かけませんか」/「あなたのお父様にもお母様にも会っていません/会ったのは あなたの恋人ジョニー」('O saw ye my father?  Or saw ye my mother? / Or saw ye my true-love John?' / 'I saw not your father, I saw not your mother, / But I saw your true-love John.)と始まる。(兄の名前「ジョン」が恋人の名前に変わるという風に、固有名詞は往々にして変化する。)
  見かけたという返事に、「ああ どうしてこんなに遅いのでしょう」と不安を募らせる娘は、「今晩あなたのところに行くから/何も心配するな と言っていましたよ」と慰められる。やがてウィリーがやって来る。「ウィリーは恋人の戸口にやって来て/そっと掛け金をはずしました/「メギー 寝ているのかい 起き ているのかい/さあ立って お前の恋人を中に入れてくれ」(Then Willie he has gane to his love's door, / And gently tirled the pin: / 'O sleep ye, wake ye, my bonny Meggie, / Ye 'll rise, lat your true love in.') この場面、「クラーク・サンダーズ」("Clerk Saunders", Child 69)という作品のF版3、4スタンザでは「マーガレットの戸口にやって来て/掛け金をはずしました/マーガレット 寝ているのかい 起きているのかい/・・・/お前の恋人サンダーズだ/戸を開けて 中に入れてくれ」(he came to May Margaret's door, / And tirled at the pin. / 'O sleep ye, wake ye, May Margaret, / … / 'It 's I, Clerk Saunders, your true-love, / You 'll open and lat me in.)と表現されている[恋人を訪ねて来て、戸の掛け金をはずして「寝ているのか 起きているのか」と尋ねるシーンは、「ウィリーと貴婦人メイズリー」("Willie and Lady Maisry", Child 70)のB版ほか、複数の作品で見かける、これも「決まり文句」の一つ]。 娘が素早く恋人を中に入れ、二人が待ちきれないようにベッドに直行する場面:「トランプしますか ダイスしますか/それとも 坐ってワインを飲みますか/ それとも きれいな毛布をかけた/ベッドにまっすぐ行きますか」/「トランプはしない ダイスもしない/坐ってワインも飲まない/きれいな毛布をかけた/ ベッドにまっすぐ進みたい」 ('O will ye gang to the cards or the dice, / Or to a table o wine? / Or will ye gang to a well-made bed, / Well coverd wi blankets fine?' / 'O I winna gang to the cards nor the dice, / Nor yet to a table o wine; / But I 'll rather gang to a well-made bed, / Well coverd wi blankets fine.')は、同じく「クラーク・サンダーズ」のF版5、6スタンザでは、「マーガレット トランプしますか/それとも食事をしますか /それとも きれいな毛布をかけたベッドに行って/ゆっくり休みますか/トランプはしない/食事もしない/きれいな毛布をかけたベッドに行って/ゆっくり休みましょう('O will ye to the cards, Margaret, / Or to the table to dine? / Or to the bed, that's weel down spread, / And sleep when we get time?' / 'I 'll no go to the cards,' she says, / 'Nor to the table to dine; / But I 'll go to a bed, that 's weel down spread, / And sleep when we get time.')となっているのである。('wine'が'dine'に取り替えられても、行末の韻が守られていることに注目!)

「夜が明けるまで啼かないで」と約束させた雄鶏が、娘を裏切って一時間早く啼いてみんなを起こしてしまう。大急ぎで身支度を整えたウィリーは姿をくらます。 「ウィリーが高い高い丘を越え/さびしい谷をくだってゆくと/悲し気な巨人の亡霊に出会いました/一万人をも恐れさす 巨人の亡霊でした」(As he gaed ower yon high, high hill, / And down yon dowie den, / Great and grievous was the ghost he saw, / Would fear ten thousand men.)と、「母の呪い」("The Mother's Malison, or, Clyde's Water", Child 216) A版の第7スタンザ: 「ウィリーが高い高い丘を越え/さびしい谷をくだってゆくと/轟くクライド川に出会いました/一万人をも恐れさす 轟くクライド川でした」(He rode up yon high hill, / An down yon dowie glen; / The roaring of Clyde's water / Wad hae fleyt ten thousand men.) の両者では、「轟くクライド川」が「巨人の亡霊」と交換されているだけなのである。

Child 255 willie s fatal visit bt
 陣内敦 作

次にウィリーが教会墓地に入ってゆくと、また同じ亡霊に出会う。亡霊はウィリーに、「お前はこの道を何度も通り/罪を犯して何度も通りながら/神様に 無事に戻してくださるようにと/祈ったことなど一度も無い/・・・/もう二度と ここを通ることは無い/かわりに 形見を残してゆくのだ」と、恋人の元への夜這いの罪を糾弾される。

ウィリーが残した形見とは、千々(ちぢ)に引き裂かれた身体で、手足は教会の座席の一つ一つに掛けられ、恋人の席には頭と金髪が掛けられたという。この歌の独自性が主張出来るのは、この最後の、極めてゴシック的な奇抜さだけであったといっても過言では無いが、身体をバラバラにするというゴシック性そのものは、八つ裂きにされた主人公のちぎれた肉片と血糊が小枝やピートの土手に飛び散ったと、凄惨な荒野の風景をうたって終わる「チャイルド・アウレット」("Child Owlet", Child 291; 第69話参照)とも共通するものである。どちらが先か後かとか、どれが純粋でどれが不純であるかといった詮索をするのではなく、伝承の過程で記録されたものをあるがままに受け止めるところから伝承バラッドの世界への入門は始まることを繰返し強調しておきたい。


ひとくちアカデミック情報
決まり文句:「常套表現」Commonplaces. チャイルドは巻末に36種類の分類をして、それぞれの出典個所を整理しているが、その総数は468箇所以上にのぼる。(「以上」というのは、多少の単語の変化、表現の崩れを含めるという意味である。)。上の本文で例証したものの中では「トランプしますか ダイスしますか」の6例が挙げられているが、その他は「常套表現」としては扱われていないものであ る。にもかかわらず、このような類例が多々見出せるということが、伝承の過程で合成されてゆく姿を如実に物語っていると言えるだろう。

原詩(英詩)の箱

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