第68話 「男らしくしたらどうなの」
「エッピー・モリー」 ("Epie Morrie", Child 223)


結婚を拒んだ女を奪おうと、ハイランドの男ウィリーと仲間たちが大挙してやってくる。「ストラスドンの男となど/結婚したりしないわ」と見えをきるエッピー・モリーを馬の背に縛りつけて立ち去り、司祭のところに連れて行く。司祭の胸に銃を突きつけて、「結婚させろ」と迫るが、「私から離れて 司祭様/私から離れて/ストラスドンの男となど/結婚したりしないわ」と、エッピーは相変わらず強気である。司祭も、娘の同意無くして結婚させることはできないと言って、申し出を拒む。連れ去られたエッピーは、そのまま遂にウィリーと「一つベッド」に寝かされる運命となる。それでもエッピーは抵抗する。「私から離れて ウィリー/私から離れて/私が処女を失う前に/あんたと私で力試しよ」と言ってエッピーは、被っていた帽子(多分、ナイトキャップ)を床に投げ捨て、「私が処女を失う前に/朝まであんたと格闘してやる」と啖呵を切る。

翌朝スカレター(近所?)の娘が「起きて 起きて 若奥様」と起こしに来ると、エッピーは「私を乙女と呼んでちょうだい/あなたと同じ処女なんだから」と応える。ウィリーはその娘から、「まったく残念だったわね ウィリー/いっぱしの男を証明するため/娘の処女も奪えないなんて/あの娘はあんたの手を借りたかったかもよ」と言われる 始末であった。エッピーからは、「ストラスドンの男となど/結婚したりしないわ」と繰返される。家に戻ろうとするエッピーは、馬を一頭連れて来るようにウィリーに命じるが、「男らしくしたらどうなの/私を母さんのもとへ返して/来たときの通り処女としてよ」とだめ押しをするのであった。

夜の間にどのような格闘が展開したのかはうたわれていないので不明であるが、結果は明白であった。力試しでエッピーの方が上だったのか、それとも、ウィリーは抵抗されて本番で不能だったのか。実は  'Mudcat Café'というサイトがあって、この歌をめぐって様々な質問とか情報交換が行われている。そこでやはり、ウィリーの 'impotence'をめぐる解釈がひとしきり展開する。私から提供出来る一つの情報として、この歌の逆のケースとして女の不能を題材としているめずらしい作品がある。「エロール伯爵」("The Earl of Errol"  231A)という、夫婦の初夜のトラブルをめぐる裁判事件で、夫が不能であったと申し立てる妻とその父親に対して、訴えられた男は別の女性と子供を儲け、自分のせいではないことを証明するという、およそ伝承に馴染めない、個人的にはどこかの三文文士の駄作としか思えない作品である。それに比べると、今回の作品の方は、 男が女を略奪しようとする話も、女が男よりも「強い」という話も、よくある話で、伝承バラッドとして何ら無理は無いと言えよう。(これまでの第66、67話ともに、この線の話である。)男のいくじ無さをなじる点では「だまされた騎士」("The Baffled Knight", Child 112B)とも同じである(第7話参照)。

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Strathdon


古い作品に登場する地名が今日の地図などで確認できないという悩みはバラッドを扱っていて付きまとう問題で、この作品の「ストラスドン」 ('Strathdon')はアバディーンの西45マイル辺りにある谷間の村と判るが、それ以外の「キャリー」 ('Carrie')、「スカレター」 ('Scalletter')、「ベルボードレイン」('Belbordlane') については、上に紹介したサイトで様々な情報交換がなされており、「キャリー」は(チャイルドも頭注で推測している)「ストラスドン」近くの「キャリーサイド」 ('Carrieside' ←'Carvieside')、「スカレター」も「ストラスドン」区域内の「スケラター」 ('Skellater')ではないか、しかし「ベルボードレイン」については未解決、といった状態である。

そういう場合、人物名も地名も長い年月の流れの中で風化してその個別性を失い、出来事の核心部分だけを物語として楽しむという、伝承バラッドの原点に感謝してゆく以外にあるまい。最近またある所でバラッドを紹介していると、「なぜこんなに女性が強いのですか」という質問を浴びせられる。種の保存のために強くなくてはならない??? ワカラナイ・・・。

ひとくちアカデミック情報
'Mudcat Café':  オンライン意見交換サイトで、主として英米その他各国のフォークソングやフォークロアなど音楽に関連した質問、解答を掲載している、音楽家、歴史家など、その分野に熱心な人々の助け合いサイト。例えば今回の場合、Subject: RE: Eppie Morie: What does it all mean?というテーマで、スコットランド語の意味の質問と解答ほか、上に紹介した地名などの判らない問題ほど多くの人が情熱的に情報交換を展開してい る。入会無料。http://www.mudcat.org/ 

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