第65話 追悼 ジーン・レッドパス
「ガムリー川で溺れたウィリー」 ("Rare Willie Drowned in Yarrow, or, The Water o Gamrie", Child 215E)

出だしは、「わたし」と恋人ウィリーの母親とのやり取りのようである。最愛の息子ウィリーと結婚すると言い張る娘に、母親は、他の息子たちの誰と結婚しても 良いがウィリーとだけは止めてくれと言う。何故なのかは解らない。ウィリーの手や顔が美しい、心から彼を愛しているの、と繰返すばかりの娘に対して、続く 第4、5スタンザの「ウィリーには土地がありません/どうやって暮らすつもりなの」とか、「ウィリーには他に取り柄がありません/どうやって暮らすつもりなの」と問いかける人物は、今度は娘の母親か?(最終スタンザでの花嫁の母親への言及から考えるとそうなるのであるが、省略が多いバラッドの解り難さの例である。)

結婚式の当日、70人の親戚・友人たち(?)と 会場に向かう途中でウィリーは、「皆さん お先へ/忘れ物を思い出しました/お母さんから祝福をいただくこと/これがなくては結婚式にはゆけません」と言って、引き返す。母親の賛同を得ないまま、式を挙げようとしていたようである。母親は、「ぺギーはほんの十五才/おまえはまだ二十才」と、二人の若過ぎ る結婚に反対であると言っているようである。しかし、続く「ガムリーの川はとても広い/重い呪いをかけてやる」という台詞はただ事ではない。渡って行く川 の水を呪いで増水させて、言うことを聞かない息子を殺してやる、というのである。『母の呪い』(チャイルド216番)と同じである(第28話参照)。

ウィリーの空馬(からうま)が一行の後を追ってガムリー教会に到着する。皆には、その訳(わけ)は解っていた。何も知らない花嫁が「どうして悲しんでいるの/あの人はどこにいるの/わたしと結婚する人は」と尋ねる。ウィリーの兄が「メグよ 本当のことを教えよう/ガムリー川の流れは強く 弟は渡れなかった/ガムリー川で 弟は溺れてしまった」と説明する。(ウィリーの相手の女のことを、母親は「ぺギー」と言い、兄はここで「メグ」と呼んでいるが、原語の 'Peggy'も 'Meg'も 'Margaret'の別称である。Margaret → Meg, Meggy → Peggyと変化したのである。敢えて違いを説明するとすれば、兄の方は弟の花嫁に対する愛情を込めて'Meg'という愛称で呼び掛けているのに対して、 母親の'Peggy'には、より方言色の強い音感というか、ローカル色が伝わってくる、と言えるかも知れない。)

これを聞いた花嫁は、頭を飾っていたリボンを全部引きちぎり、ガムリー川に走って行き、上流から下流まで探しまわる。ようやく川の真ん中辺りで恋人を見つけた花嫁は、ウィリーの金髪をかきあげて口づけしながら、「わたしの母の心も あなたのお母さんと同じ/ふたりでガムリー川に眠りましょう」と語りかける。「あな たのお母さんはひどい人/わたしのお母さんもひどい人/クライド川の底深く/兄妹のように眠りましょう」と言って終わる『母の呪い』とまったく同じであ る。

Child 215 willie s drowned in gamery 3 bt

From Smith, ed., Illustrated British Ballads, Old and New. 1881.


ウィリーが溺れた場所は版によって様々で、AからC版まではヤロー川、DからH版はガムリー川である。ヤロー川は聖メアリー湖からエトリックの森を経てエトリック川と合流する川であり、ガムリー川はスコットランド北東岸にあり北海に面したマリー湾に注ぐ川。「ウィリーは結婚の約束をしてくれた/長い冬の夜  わたしのベッドの脇の愛する人はもう居ない/皆さん ウィリーの姿を見かけませんでしたか/あちこち探し廻って ついにヤローの川石にはさまって溺れてい るウィリーをみつけました」という短い4スタンザからなるA版をジーン・レッドパスは、その短さの中にある迫力ゆえに好きだと言い、彼女のレパートリーの最初期からのものであり、その新鮮さは生涯にわたって変わらないと、これを収めたアルバムFather Adam(1979)のジャケットで述べている(レッドパスのうたうタイトルは"Willie's Rare")。

ジーン・レッドパス(第5話「ひとくちアカデミック情報」参照)が、アメリカ・アリゾナ州のホスピスで8月21日に亡くなった。77歳。彼女の活動の全容についてはBBC News ScotlandThe Scotsmanなどのウェブページで繰返し特集が組まれていたが、YouTube上にも次々と惜別のコメントが登場した。Edinburgh Evening Newsは 「ジーン・レッドパスをスコットランドのフォーク歌手と呼ぶのは、ミケランジェロをイタリアの室内装飾家と呼ぶようなものだ」と書いた。実に素敵な表現であり、このようなレトリック以外に彼女の偉大さを表現する言葉は無いのではないか。今回の「歌の箱_1」は、わたしが追悼の思いを込めて作成したものであるが、「歌の箱_2」は、ジョセフ・キャンベルの作品 "The Old Woman" (1919)を 2008年4月のラジオ番組でレッドパスがうたったものを、「ジーン・レッドパスよ 安らかにお眠りください」というタイトルでYouTubeにアップされていたものである。これを聴いて、わたしは身の毛がよだった。日本で、通夜の時に聴くお坊さんのお経そっくりではないか!                                   

ひとくちアカデミック情報
ジョセフ・キャンベル: Joseph Campbell, 1879-1944. アイルランドの詩人。ゲール語名Seosamh Mac Cathmhaoil (また、 Seosamh MacCathmhaoil)で作品を発表する。今日、彼の名は、My Lagan LoveGartan Mother's Lullabyなどの伝統的なアイルランドの曲につけた歌詞で知られる。  
  ジーン・レッドパスがうたう"The Old Woman"の歌詞は次の通りである: AS a white candle / In a holy place, / So is the beauty / Of an aged face. / As the spent radiance / Of the winter sun, / So is a woman / With her travail done. / Her brood gone from her, / And her thoughts as still / As the waters / Under a ruined mill. __ Joseph Campbell (Seosamh MacCathmhaoil)

原詩(英詩)の箱

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