第40話 禁じられた遊び 
『錐穴』("The Whummil Bore " , Child 27)

イギリスのウィリアム王子の妻キャサリン妃のトップレス写真がフランスの「クローザー」誌に掲載された問題が最近裁判沙汰になったが、この種の写真雑誌は日本でも長年にわたってしばしば物議を醸し出している。低レベルの覗き見趣味は洋の東西を問わないということか。バラッドでも覗き見をうたったものがあるが、私はかねてより今回の作品を愛すべき小品と高く評価しているものである。バラッドの世界がいかに品の良い節度を持っているか、そして、切ない想いを巧みに伝えるものであるかということをお解りいただけるだろうか。

王様に仕えていた小姓が、王女様の隣の部屋の壁に錐で開けた小さな穴から覗き込む。

Child 027 whummil bore
 陣内敦作

そこに見たものは、何と王女様の着替えの場面であった。小姓の年齢は不詳であるが、10代の前半と想像したい。大勢の侍女が、ガウンを着せ、靴をはかせ、髪を梳っていたのである。侍女たちにかしづかれた王女の高貴なまでに白い肌を目にした瞬間の、小姓の天にも昇る思いはいかほどであったか。天と地ほどにも身分の違う小姓が、王女様の着替えの場面を目撃したのは後にも先にも一度だけであった。錐穴から引き離された彼は吊し首になったか、それとも、追放されて放浪の身となったかは、判らない。

あるいは、ひょっとして、王女様の隣の部屋の壁に穴を開けることは現実的にはいささか無理があって、これは思春期を迎えた小姓の夢想の世界だったか。錐穴は万華鏡で、そこに覗き見る世界に小姓はしばしの時を忘れるのである。

「首も胸も雪のよう その先は/錐穴から引き離されて それっきり」とうたい終わる最終連の 「首も胸も雪のよう」('Her neck and breast was like the snow')という素朴なセリフには、この世で最高に美しいものを目にした感動が伝わってくるではないか。俗悪な性的好奇心しか持ちえない現代のカメラマン氏とは天地の差である。

これをうたうモイラ・キャメロン (Moira Cameron)はカナダのバラッド歌手であるが、父親がスコットランド出身で、小さい時からバラッドをうたい、踊るという、いわゆる「口承伝承」 ('oral tradition')の家庭に育ったそうである。スコットランド伝承バラッドが、このような形でも遠い異国の地でうたい継がれているのである。


ひとくちアカデミック情報モイラ・キャメロン:Moira Cameron. 1968年生まれ。カナダのバラッド歌手、ストーリー・テラー。
http://www.celtarctic.com/moira_main.htm
http://www.myspace.com/celtarctic
http://www.facebook.com/pages/Moira-Cameron-Balladeer/30860204912

原詩(英詩)の箱

画面をクリックすると拡大されてご覧いただけます 解除するにはescキーを押してください

 en-pdf

訳詩の箱

画面をクリックすると拡大されてご覧いただけます 解除するにはescキーを押してください

ja-pdf