balladtalk

第37話 心臓の血になんの違いが・・・ 
『ラムキン』("Lamkin" , Child 93A)


殺害事件をうたう数あるバラッドのうちでも、その残忍な手口において、前話に続いてスティーライ・スパンがうたう"Long Lankin" (「歌の箱1」; Commoner's Crown, 1975; "Lamkin", Child 93)の右に出るものはないだろう。腕のたつ石工と名の聞こえたラムキンは、ウィリー卿の城を建てたのにお金を払ってもらえない。支払いをどんなに求めても聞く耳持たず、ウィリー卿は海の向こうに出かけてしまう。

Child 093A lamkin
陣内敦作

留守番役の乳母が実は悪者で、召使たちの留守をみてラムキンを城内に導き入れる。ここから先、二階の部屋にいる奥方を階下に呼び出す残忍な手口が展開する。まずはラムキンが鋭いナイフで赤ん坊に深傷(ふかで)を負わす。そして、「ラムキンが揺り籠を揺らし/悪い乳母が 子守歌をうたうたび/籠の網目から/赤い血が吹き出しました」とうたわれる。驚いた奥方が二階の踊り場から乳母に向かって、泣いている赤ん坊を鎮(しず)めるように言うが、乳母は、どんなにあやしても「奥様が階下(した)に降りてこられるまでは/赤ん坊は 泣き止みません」と言う。降りてきた奥方の目の前にラムキンがいる。

 starlight castle 1

 

ラムキンが建てた城の実在についてはスコットランドや北イングランドの古城をめぐって諸説あるが、左の挿画 "Starlight Castle"もその一つで、「歌の箱2」でうたうノーサンバーランドのストーリーテラーでありバラッド歌手のSEDAYNE (aka Sean Breadin)は、子供の頃よりそのように言われて育ったそうである。

『ラムキン』というタイトルからもこの歌の主人公は石工のラムキンで、仕事の報酬をもらえなかった恨みを晴らすための殺害事件と思われがちだが、以下のやり取りから浮かび上がって来るのは、むしろ乳母の復讐心である。奥方が命乞いをすると、「乳母よ 奥様の命を頂戴しようか/それとも 命は助けてやろうか」とラムキンは乳母にお伺いを立てる。乳母は、「ラムキン 殺しておしまい/奥様は いままでわたしに冷たい仕打ち」と応える。ラムキンが、「乳母よ たらいを洗って/奥様の心臓の血を受けるのだ/きれいなたらいを用意するのだ/奥様は 尊いお方なのだから」と言うと、乳母は、「ラムキンよ たらいなんか要(い)るものか/血は床(ゆか)に流しておしまい/金持ちと貧乏人とで/心臓の血に なんの違いがあるものか」と突き放す。貧しい身分ゆえに、乳母は今まで奥方から絶えず差別的な仕打ちを受けてきたのだろう。「金持ちと貧乏人とで/心臓の血に なんの違いがあるものか」─ これほどインパクトのあるプロテスト宣言があるだろうか。前話の「きれいな小鳥」('a bonny birdy';下線筆者)は飼主の酷い仕打ちに復讐して告発者になったが、ここでは、死刑を宣告されたラムキンのために「クロツグミが きれいに鳴きました」('O sweetly sang the black-bird';下線筆者)とうたわれ、火あぶりされる乳母のために「ウタツグミが きれいに鳴きました」('bonny sang the mavis';下線筆者)とうたわれる。いずれの場合も「きれいな」、あるいは「きれいに」という肯定的な形容辞が付いていることは、必ずしも無意味ではあるまい。ツグミは敗者に寄り添って鳴いて(=泣いて)いるのである。「黒人女性の人権擁護や解放についてうたった」というポール・マッカートニーの Blackbird に通底していると言えば、言い過ぎだろうか。(1960年代にジョウン・バエズらがベトナム反戦歌フォークソングとともにチャイルド・バラッドをうたった背景にも共鳴するものがあるのではないか。第2話の「ひとくちアカデミック情報」参照)

ひとくちアカデミック情報
Blackbird: 1968年に発表されたジョン・レノンとポール・マッカートニーのナンバー。アルバム『ザ・ビートルズ』に収録。ポールは、1968年の春、スコットランド滞在中にこの歌詞がひらめいたという:Blackbird singing in the dead of night / Take these broken wings and learn to fly / All your life / You were only waiting for this moment to arise. / Blackbird singing in the dead of night / Take these sunken eyes and learn to see / All your life / You were only waiting for this moment to be free. / Blackbird fly Blackbird fly / Into the light of the dark black night. / Blackbird fly Blackbird fly / Into the light of the dark black night. / Blackbird singing in the dead of night / Take these broken wings and learn to fly / All your life / You were only waiting for this moment to arise / You were only waiting for this moment to arise / You were only waiting for this moment to arise.

原詩(英詩)の箱

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