第24話 求愛は花言葉で 
『庭師』("The Gardener", Child 219A)

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"The Gardener" illustrated by W. Cubitt Cooke.

家の前を通りかかった「誠実そうな娘」に庭師が、「ねえ お嬢さん/僕の花嫁にならないかい/そうすれば この庭のあらゆる花で/君の服をつくってあげるよ」と言って求愛する。以下、いろいろな花々で飾り立てようと、甘いセリフが続く。真っ白なユリはスモックに、頭にはカーネーションを、胸には桜草を、ガウンはなでしこで、 コートはカモミールで、エプロンは甘くて薫り高いサラダ菜で、ストッキングはキャベツの大きく長い葉っぱで、手袋は手に輝きを添えるようにマリーゴールド にして、麦畑に咲く青い釣鐘草をちりばめよう、と言う。ところが、冒頭で、「柳のように細」くて「「誠実そう」と繰り返し強調された娘は、その一見か弱そうな印象に反して、強烈なパンチを繰り出して求愛を拒むのである。「夏に咲く花々で/私に服をつくってくれたから/私もあなたに一つつくってあげる/冬に降るシャワーでよ」と反撃し、さらに「新雪であなたのスモックを/・・・/頭は東からの風で飾り/胸は冷たい雨で飾ってあげるわ」と言うのである。

娘がにべも無く肘鉄を食わせるのは、もともと高慢な娘で、庭師など歯牙にもかけなかったのか、それとも、贈った花の種類が悪かったのか。この歌が紹介された19世紀は、いわゆる「花言葉」が盛んになった時代で、人々は種々の花に、その象徴的な意味を込めて贈りあったりして遊んだ(あるいは、真面目に求愛した?)。しかし、それらの花々が意味するものが普遍的なものもあれば、時代や国々によっていろいろと異なる場合も多いこともまた当然であろう。従って、以下に述べることも、あくまでもいろいろな事典類から伺える一般的な解説であることをご了解いただきたい。

「純潔」を表わす白い「ユリ」は良いとして、「桜草」には「憧れ、希望」などの良い意味のほかに「うぬぼれ」や「不実」の意味があり、「なでしこ」には「完璧」とともに「大胆」という意味もある。「マリーゴールド」には「可憐な愛情」のほかに「嫉妬」や「別れと悲しみ」の意味があり、「衣装」という意味での ‘weeds’には「雑草」という意味もある。「釣鐘草」にある「節操」の他の「従順」の意味や、「カモミール」の「苦難のなかでの努力」などという意味はとうてい受け入れられない要素にもなりえよう。口八丁な男に対するに別の花言葉を投げかけるのではなくて、着るにも着れない冬の雪と風と雨で服を作ってあげようという、女の冷たく短いセリフが効いている。いや、この手の冷たさは、ますます男を惹き付ける女の手管か。スコットランドのバラッド歌手ジーン・ レッドパス(第5話の「ひとくちアカデミック情報」参照)もこの歌がお気に入りの一つだと言っているが、バラッドには、このような遊び心も満載で、男女の楽しいやり取りも多いことをお伝えしたい。現代風の花言葉を読み込んで楽しむのも一興であろう。

ひとくちアカデミック情報
「花言葉」:(The language of flowers, or floriography) ギリシア神話のナルキッソス(泉に映った自分の姿に恋して死に、スイセンの花になった美少年)を持ち出すまでもなく、古来、人間は身近かな野の花に様々な想像をめぐらせて、意味付けし、物語をつくってきた。ジョン・イングラムの『フラワー・シンボル事典』(John Ingram, Flora Symbolica, 1869)に代表される花言葉をめぐる事典類がヴィクトリア朝時代に各種出版された背景には、いわゆる「ヴィクトリアニズム」と呼ばれるヴィクトリア朝的な押し付けられる道徳生活(=お行儀よさ)に反発する手段として人々が様々な隠された意味を込めてブーケにした花を贈り合ったという面白い事情もある。「赤いバラ」は普通に「あなたを愛しています」だが、「薄いピンクのバラ」だと「この愛は秘密に」という意味になったりする。また、上の本文の解説でも述べたように一つの花に正反対の意味もあったり、事典によって意味の解説も違ったりするわけであるから、特に恋人同士は同じ事典を持つようにとも指導されていたそうであるから愉快である。

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