第7話 草食騎士?
『だまされた騎士』("The Baffled Knight", Child 112B)

2009年流行語大賞トップテンに「草食男子」が入ったが、今回紹介する騎士は、 さながら「草食騎士」といったところか。 一人の若い騎士が、干し草を積んだ畑で、きれいな娘に出会う。騎士は大胆にも「干し草の中に寝ころびましょう」と誘う。力ずくでも娘を物にするのかと思いきや、「あなたの服がしわくちゃにならないように/大いに気をつけますから」と、まことに紳士的な条件を申し出る。娘はその隙を見逃さない。「お父様の館 (やかた)まで/連れて帰ってくれたなら/わたしの処女を差し上げましょう/宝物も なにもかも」と、恐らく媚を売るように優しく言う。そこで二人は仲良く馬に乗って、娘の屋敷に向かうのである。到着するや否や、娘は素早く中に入って、騎士を外に閉め出す。娘の最後の台詞は余りに見事であるから、そのままそっくり引 用しよう。

Child 112B baffled knight
陣内敦作

 

「ご苦労様です 駄賃をどうぞ
お父様の手下の者に
あなたを家まで送らせましょう

「この次 あなたが隣の村で
若い娘に出会ったときは
草の露など心配したり
服のしわなど気にしちゃダメよ

「この次 あなたが丘のふもとで
陽気な娘に出会ったときは
したいときにしなければ
いざというとき 手遅れよ」

冒頭の流行語大賞をめぐるラジオ番組で、「草食男子」の意味を解説して登場者の一人が「昭和の男子と違って最近の男の軟弱さを表現するもの」といった説明をしているのを聴いて思わず笑ってしまった。自らを含めて昭和生まれの軟弱な男は身の回りに幾らでもいる。真に肉食系男子を求めるとすれ ば、恐らく戦国時代にまで遡らなくてはなるまい。いや、どの時代にも草食系と肉食系は共存していたのではあるまいか。バラッドの世界が正にそうである。いやいや、多言を要すまい。今回紹介したものと同じ内容がヨーロッパ各国のバラッドにうたわれている。どこの国でもいつの世でも、男は女を求め、女の歓心を得ようと涙ぐましく努力し、そうして、女に出鼻をくじかれる、ということなのである。今年はしばらく、男女をめぐる柔らかい話やユーモア溢れる夫婦の物語を紹介してゆこう。

ひとくちアカデミック情報 騎士:  バラッドが民衆の歌でありながら、登場人物が「王様」や「女王様」や「王様の娘」であったり、「伯爵」や「伯爵夫人」や「騎士」であったりするが、それ は、バラッドが身分の高い者によって作られたということではなくて、バラッドを作りうたう民衆の願望や嫉妬や揶揄などを映し出しているのである。従って、われわれがバラッドを鑑賞する場合、殊更に登場人物の身分を詮索する必要は無くて、普通の男女として受け止めて一向に不自然ではない、と了解いただきた い。

原詩(英詩)の箱


画面をクリックすると拡大されてご覧いただけます 解除するにはescキーを押してください

en-pdf

訳詩の箱

画面をクリックすると拡大されてご覧いただけます 解除するにはescキーを押してください

ja-pdf