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 第14話 忠義もあり、不忠もあり、の物語
『三羽のカラス』("The Three Ravens", Child 26) と『二羽のからす』("The Twa Corbies", Child 26 headnote)

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Illustrated by W. Cubitt Cooke, from Popular British Ballads: Ancient and Modern.

木に止った三羽のカラスが獲物を探してぼやき合う。向こうの緑の野原に騎士が倒れているが、その足元には死んだ主人を守る猟犬がおり、同じく生前の従者であった鷹も空を舞って、誰も近づけない。そこに、子を孕んで大きなお腹(なか)をした雌鹿が一頭やって来る。雌鹿に変身した騎士の恋人は、「血糊のついた騎士の頭を持ち上げて/真っ赤な傷口にくちづけ」をし、それから、騎士を背負って山の洞穴(ほらあな)まで運び、そこに埋葬する。最後に、雌鹿は恋人の後を追って死んでゆく。死んだ騎士への忠義を尽くすものたちの話である。

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Illustrated by W. T. Green,
from The Book of British Ballads,
ed. S. C. Hall, 1844.

イングランドの伝承バラッド『三羽のカラス』に対抗して、スコットランド語でうたわれる『二羽のからす』("The Twa Corbies")という歌がある。スコットランドの詩人・小説家サー・ウォルター・スコット(Sir Walter Scott)編纂の『スコットランド国境地方の歌』 (Minstrelsy of the Scottish Border, 1803)で世に紹介されたが、チャイルドは自身の編纂した305篇には加えずに、『三羽のカラス』の頭注に紹介している。二羽のからすが食べ物を探しており、荒れ果てた城壁の向こうで騎士が殺されているという出だしは同じ設定である。ところがこちらは、死んだ騎士への忠義のかけらも無いことがうたわれる。「猟犬(いぬ)は狩りに出かけた/鷹(たか)は獲物(えもの)をとりに出かけた/愛人(おんな)ははや 別の情夫(おとこ)に首ったけ」という始末である。そこで二羽のからすは、心置きなく騎士の死体のご馳走にあずかることになる。こちらは不忠の物語である。

イングランド版とスコットランド版のどちらが先にあったかということについては種々異論のあるところだが、内容として『二羽のからす』が『三羽のカラス』のパロディとなっていることは明らかである。「パロディ」の英語 'parody'はギリシャ語「パロイディア」 (paroidia)を語源とし、「もじり詩」を意味したように、昔から、一つの作品に対する諷刺的なもじり作品というものは文芸、演劇、音楽などの分野を問わず存在してきた。パロディは、創作活動の世界をバランス良く健全に保つために必要不可欠なものである、という定義さえあるほどである。バラッドの世界然り。パロディ的視点が存在しなければ、バラッドの物語世界は余りリアリティが感じられなくて、こんなに長い間人々に愛され伝承されてこなかっただろう。もしも忠義の物語しか存在しないとしたら、単純に言って、面白くないし、嘘っぽく聞こえかねない。真面目な人間ばかりでは面白くないのである。忠義もあれば不忠もあるというのがこの世の常である。バラッドは、物事を複眼的にみる世界である。『二羽のからす』の最後—「騎士を探して 多くの人が涙ぽろぽろ/何処にいるのかわかりゃせぬ/肉を剥(は)がれりゃ 白い骨に/風がいつまでも吹きつける」—無常観あふれるからすの台詞ではないか。

ひとくちアカデミック情報: スコットランド語: バラッドはもちろん英国各地でうたわれたものであるが、18世紀以降のバラッド蒐集が特にスコットランドで盛んであったことから、今日われわれが耳で聴いたり文字で読んだりする歌詞がスコットランド語であることも多い。『二羽のからす』のタイトル"The Twa Corbies" の 'twa' (=two)も 'corbie' (=raven)もスコットランド語である。ちなみに、ポピュラーな単語を少し挙げてみると、'bairn' (=baby)、 'bluid' (=blood)、'bonnie' (=pretty)、'kirk' (=church)、'loch' (=lake)、'muckle' (=much)など。スコットランド語の辞書では、The Concise Scots Dictionary, ed. Mairi Robinson (Aberdeen UP, 1987)が発音記号も付いていて便利。

 

原詩(英詩)の箱 1

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